
先進医療とは、厚生労働省が認める高度で新しい医療技術のことで、保険診療と併用ができます。不妊治療においても、妊娠の可能性を高めたり、より個々の患者さまに適した治療を選択できたりする手段として広がりつつあります。
当院では、
- タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養
- ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術(PICSI:ピクシー)
- 子宮内膜受容能検査(ERA検査)
を導入し、一人ひとりに合わせた先進的な不妊治療をご提供しています。
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養
体外受精で受精した卵子(胚)は、通常、培養器(インキュベーター)内で数日間かけて細胞分裂を繰り返し成長します。従来の方法では、胚を培養器から取り出して顕微鏡で観察していましたが、この際に温度、湿度、ガス濃度等の変化が生じ、胚にはストレスとなり良好な成長の妨げになる可能性がありました。
「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」は、培養器に内蔵された高精度カメラが一定時間ごとに胚の画像を撮影し、成長の様子を連続的に動画のように記録します。
これにより培養器から取り出すことなく胚の詳細な形態や分割パターンをほぼリアルタイムで観察でき、胚の正常な発育や異常を早期に発見しやすくなります。
タイムラプスの主な利点は、
- 胚を安定した培養環境で育てられるため、生理的ストレスを低減できる。
- 連続的な成長過程の観察により、細胞分裂タイミングや分割パターン異常を検出でき、良好胚の選別精度が向上する。
- 受精時に前核の出現過程を確実に確認でき、正常受精の判定精度が高まる。
これらにより、妊娠率向上や胚盤胞到達率の改善に寄与すると報告されていることです。
この先進医療は、従来技術と比較して胚の質評価を高精度に行えるため、当院ではタイムラプスの適用を強く推奨しております。
ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術(PICSI:ピクシー)
PICSIは、顕微授精(ICSI)の際に卵子へ注入する精子を、より生理学的に適した方法で選別する技術です。
顕微授精においては、卵子に注入する精子を1つ選ぶことが妊娠成功の大きな鍵となります。従来は、精子の「形態」や「運動性」を顕微鏡下で確認して選別しますが、この方法では精子の成熟度やDNAの損傷までは十分に評価できません。
PICSIでは、卵丘細胞外基質に存在する生体成分であるヒアルロン酸を利用します。成熟した精子は卵子との受精過程でヒアルロン酸と自然に結合する仕組みがあり、この性質を応用して、ヒアルロン酸に結合可能な精子のみを選別します。
これにより、DNA損傷の少ない、より成熟度の高い精子を用いることが可能となります。
PICSIの主な利点は、以下の2つです。
- ヒアルロン酸に結合した精子は、胚盤胞までの発育が良好であることが報告されているので、受精後の胚発育の改善が期待される。
- DNA損傷の少ない精子を用いることで、流産率の減少に寄与する可能性がある。
PICSIは、生理学的な基準に基づき精子の成熟度やDNAの損傷が少ない精子の選択が可能となる技術です。
顕微授精の一段階進んだ方法として、胚盤胞到達率の向上や流産率の低下が期待されており、より質の高い治療を目指す上で有益な選択肢といえます。
子宮内膜受容能検査(ERA検査)
子宮内膜受容能検査は、胚が着床しやすい「着床の窓」と呼ばれる時期を検査で特定する方法です。
人によって子宮内膜が胚を受け入れる最適なタイミングは異なり、この検査により適切な胚移植タイミングを科学的に判断します。
検査では、子宮内膜の遺伝子発現パターンを分析し、受容能のピーク時を特定します。これにより、既に胚移植を複数回行ったが妊娠に至らなかった患者さんに対して最適な移植日を設定でき、着床率や妊娠成功率の向上が期待されています。
先進医療における留意点
先進医療は厚生労働省が認めた高度な医療技術ですが、効果や安全性が必ず保証されているわけではありません。リスクや効果については、医師またはスタッフより説明を受けたうえで治療をご検討ください。
